| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-025 (Poster presentation)
カミキリムシ科 Cerambycidae は国内に約700種類が知られる鞘翅目の中でも種数が多い分類群である。本科成虫は摂食・繁殖の場として宿主植物の葉や花に訪れる。一方、幼虫は植物体内に穿孔して、木質組織を摂食する。そのため本科群集は、特に森林の階層構造下で、各層に様々な微小生息地をもつと考えられるが、これらの関係性に言及した先行研究は少ない。そこで本研究の目的は長野県中南部地域における本科の微小生息地と植生の関係性を明らかにし、これらの環境指標性を検討することとした。
群集調査は3つの階層別によるルートセンサス法により伊那市の2調査地で実施された。調査地内に100 m小区間15区からなる1.5 km のルートを3本設定した。また、相観的な植生調査が年1回実施された。群集解析として多様度指数の算出、BC非類似度を用いたNMDS、TWINSPAN解析が実施された。さらに吉田・大窪(2023)による長野県中南部地域の先行研究と比較して環境選好性について考察を行った。
全調査期間で確認された本科は4亜科57種275個体だった。類似度指数を用いたNMDSによってフトカミキリ亜科が多い区と他に区別された。本種群の特定の種が利用する微小生息地を含んだ区で、該当種の個体数のみ多く、不安定な群集と評価された。またTWINSPAN解析から本亜科のうち渓畔林に特異な種群が分類された。
ハナカミキリ亜科の出現が多い区はNMDSで近い位置に配置され、いずれも多様度指数の値は高かった。他にも層別に特異な種群と対応する微小生息地が確認された。
フトカミキリ亜科は、特定の環境に生育する植物を利用する種が存在するため、植生や階層構造に依存すると考えられた。一方でハナカミキリ亜科の種群は、成虫が広く開花植物を利用するため、植生環境や階層構造よりも植物の開花消長に依存し、季節的な多様性をもつと考えられた。