| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-027 (Poster presentation)
港湾構築物上の潮間帯の底生生物群集の構造は周辺の天然岩礁上と異なることが知られているが、築港によって周辺の天然岩礁の群集構造がどのような影響を受けるのかについては、これまで評価されたことがない。そこで研究では、局所的な人為的環境改変が生態系に及ぼす影響を評価する際に有効な調査デザインであるBefore-after-control-impact (BACI) designs(人為改変をあった場所とその対照とで事前事後を比較) を用いて、築港が近傍の岩礁潮間帯の岩礁潮間帯の生物群集に与える影響を評価した。北海道東部の5海岸(うち1海岸は距離260mに築港)の各海岸にそれぞれ5つの調査区を設置し、岩礁潮間帯生物群集の各種のアバンダンスを21年間調査した。調査から得られた工事開始直前と築港から8年経過後の両期間の5年間の海岸ごとのアバンダンスデータを用い、主要な4機能群(底生藻類、固着動物、植食性軟体動物、肉食性軟体動物)の機能群レベルと種レベルの海岸スケールでのアバンダンスに対する築港の影響を評価した。この結果、植食性軟体動物と肉食性軟体動物とでは、機能群アバンダンスと優占種のアバンダンスの減少が見られた。加えて、底生藻類と固着動物では機能群アバンダンスへの築港の影響は認められなかったものの、一部の優占種の種レベルのアバンダンスは築港により変化し、底生藻類では2種が減少し、固着動物では1種が増加した。以上の結果は、築港によって周辺の天然岩礁の海岸スケールでの群集構造が恒久的に変化する可能性を示唆する。このことは、築港による海洋生態系への影響を検討する際には、従来指摘されてきた港湾構築物上に天然岩礁とは異なる底生生物群集が形成されることを介した影響ばかりでなく、築港によって周辺の天然岩礁の群集構造が恒久的に変化することによる影響についても考慮する必要があることを示している。