| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-028 (Poster presentation)
生態と進化の間の循環的な相互作用である生態―進化フィードバックに関する理論・実証研究が近年急速に発展している。このフィードバックの実態を理解するためには、遺伝子頻度情報と個体群・群集情報についての両時系列データが必要である。しかし、野外の非モデル生物において、形質に関連する遺伝子とその集団内頻度の情報を得ることは困難である。また、群集を対象とした調査においても、種同定をはじめ多大な労力を要する。そのため、生態―進化フィードバックの実証研究は、培養系や閉鎖実験系が主であり、野外における生態―進化フィードバックの実態はいまだ明らかではない。加えて、反復的な生物採取調査は、遺伝子頻度や群集の動態に影響を与える可能性も考えられる。
われわれは、これらの問題を解決するために環境DNAを用いる方法に着目した。もし、環境DNAから遺伝子頻度と群集組成の情報が同時に得られるならば、これまでの問題のブレイクスルーとなり、野外における生態-進化フィードバックの実態解明が進む可能性がある。
そこで本研究は、ヤナギ科植物のスペシャリストであるヤナギルリハムシ(Plagiodera versicolora)とヤナギ上に生息する節足動物群集をモデル系として、環境DNAによって進化と群集の動態を検証することを目的とした。この系では、ハムシの摂食行動の迅速進化と群集構造が相互に影響を与え合っており、加えて、摂食行動に関する遺伝マーカーも開発されているため、環境DNAからこの変異の動態を知ることができる可能性がある。札幌の都市河川流域の複数地点を調査地として、6〜9月に週一回の頻度でヤナギ上から環境DNAを繰り返し収集した。そして、定量PCRとメタバーコーディングによる遺伝子頻度と節足動物群集の推定を行った。本発表ではこれらの結果について報告し、迅速進化と群集動態のパターンやその間の関係について論じる。そして、この分野における樹上環境DNAアプローチの有用性について議論する。