| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-029 (Poster presentation)
水生昆虫は河川生態系の食物連鎖において主要な役割を担っており、その動態を知ることは河川の生態系の理解につながる。河川の水生昆虫相は、生息環境の物理的、時間的変化と共に変化するため、水生昆虫相を評価するには、季節変動や年次変動を調べることが重要である。大倉川は日本海の佐渡島の北西部・外海府海岸に位置する。流路延長は2500 mの急勾配の河川であり、周囲に人工物が少ないため、渓流の景観を保ったまま海へ流れ込む。同様の環境を持つ河川は日本国内に多数存在するが、このような河川での水生昆虫相の動態についての報告は少ない。そこで本研究では、大倉川における水生昆虫相の季節変動を明らかにするため、2022年5月から10月に、大倉川の上中下流域で水生昆虫の採集と科レベルの同定、環境要因の測定を行った。また、2015年から2019年の5月に大倉川で取得された水生昆虫相のデータを基に年次変動について検討した。その結果、採集された水生昆虫の総個体数は5月と6月の調査で最も多く、7月以降は減少した。開空度は上中流域に比べ下流域で高く、月ごとにみると、いずれの地点でも10月で最も高かった。季節変動では、中下流域で、ニンギョウトビケラ科、マダラカゲロウ科、ヤマトビケラ科、ヒラタカゲロウ科の個体数が多く、変動も大きかった。上流域ではヒラタカゲロウ科が優占しており、その他の科で大きな季節変動は見られなかった。年次変動では、中下流域で、ヤマトビケラ科とシマトビケラ科が優占し、ヤマトビケラ科では個体数の年次変動が大きかった。上流域ではコカゲロウ科が優占し、昆虫相の年次変動は小さかった。これらの結果から、小規模河川である大倉川では、上流域よりも中下流域における水生昆虫相の変動が大きく、造網型トビケラが優占する極相を持つ大規模河川の中下流域と比較して、中下流域の底層ではかく乱頻度が高いことが示唆される。