| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-031 (Poster presentation)
不定期かつ一時的に資源が急増する「資源パルス」の一つである葉食性昆虫の大発生は森林生態系に大きな影響を与える。この大発生は天敵となる捕食者が果たすトップダウン効果によって制御されることも多く、特に捕食性昆虫が果たす役割は広く知られる。一方、鳥類は食性幅や行動範囲が季節や種によって大きく異なるため、天敵として果たす役割の大きさは季節や鳥類種によって異なることが予想される。
本研究では、鳥類の繁殖期における葉食性昆虫の大発生に対しては、ほとんどの鳥類の行動圏が固定されているため、多くの鳥類種の密度は急激に増加しないという仮説を立てた。この仮説を検証するため、葉食性昆虫であるブナハバチの大発生が不定期に起こる丹沢山系において、ブナハバチの幼虫を捕食する鳥類群集とブナハバチの個体数の関係を9年にわたって調査した。ブナハバチの幼虫は多くの鳥類の繁殖期である5月下旬から6月上旬に発生し、ブナの葉を一枚食べ尽くすと地面に落下し、別の葉を食べるために再び樹幹を登る性質がある。
調査の結果、ブナハバチの幼虫を採食する15種の鳥類種のうち14種の鳥類種は、予測不可能かつ一時的なブナハバチの大発生に併せて密度を高めるような反応を示さなかった。しかし、ゴジュウカラのみが、大発生に合わせて密度を高めることができた。
この理由として、ブナハバチは樹幹を登る際に目立つため、樹幹を自在に動けるゴジュウカラは容易に採食できた可能性が考えられる。また、ゴジュウカラは営巣を始める時期が他種よりも早く、ブナハバチ幼虫の発生期と営巣を開始する時期が重複したと考えられる。本研究により、葉食性昆虫の大発生を管理するために天敵としての鳥類を用いた総合的有害生物管理(IPM)は可能であることが示唆されたが、そのためには昆虫の発生時期と対象となる鳥類の検討が必要であると示唆された。