| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-036 (Poster presentation)
陸上生態系の約半数の種は、植物-植食者-寄生者の3者系に含まれる。この中でも食食者に含まれる虫こぶ形成者の多様性は高く、近縁な種間でも寄生する植物部位が異なる場合も多いため、1種の植物に複数の近縁種の虫こぶが共存することも多い。そして1種の虫こぶに寄生する寄生蜂も複数種存在するが、寄生者の種多様性や群集構成を決定する要因についてはほとんど分かっていない。虫こぶの形態は主に捕食者に対して進化してきたことから、虫こぶの形態と寄生蜂の形態や生態は関連していることが予想される。ヨモギに虫こぶを形成するヨモギタマバエ属は、虫こぶの形成部位や形態の異なる複数の近縁種が同所的に共存しており、予備調査からそれぞれの虫こぶ形成者に対して、複数種の寄生蜂が寄生することが分かっている。そのため、寄生蜂の種多様性は高いことが予想され、その地域の虫こぶ形成者に寄生する寄生蜂の群集構成を決定する要因について検証するのに適していると考えられる。
本研究では、2020年から2023年にかけて青森県内5地点で定期調査を行い、ヨモギタマバエ属5種から230個体の寄生蜂を採集した。採集した寄生蜂について系統樹を用いた種分類を行った。系統樹の構築にはmtDNAのCOI領域、核DNAのCG11652、nero領域を用いた。その結果、寄生蜂はヒメコバチ科、オナガコバチ科、ハラビロクロバチ科の3科60種に分かれた。採集した寄生蜂の群集構成を決定する要因について検証するため、寄生蜂の系統を考慮した群集解析を行った。その結果、虫こぶの種ごとに寄生蜂群集が異なる傾向がみられた。これは、虫こぶの種ごとに形態的な特徴や生活史が異なり、寄生する寄生蜂が異なるためであると考えられる。
本研究により、1種の植物に、生態や形態の異なる複数種の虫こぶ形成者が存在することによって、種多様性の高い寄生蜂群集が同所的に維持されていることが示された。