| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-039  (Poster presentation)

イノシシのぬた浴びがもたらす2つの時間スケールでの両生類の繁殖への効果【A】【O】
Assessing the impact of wild boar wallowing on amphibian reproductions across two time scales【A】【O】

*佐京楓, 中島啓裕(日本大学)
*Kaede SAKYO, Yoshihiro NAKASHIMA(Nihon Univ.)

イノシシSus scrofaは,体温調節や寄生虫の除去のために水場で泥を全身に浴びる「ぬた浴び」という習性をもつ.このぬた浴びによって形成される水場を「ぬた場」と呼び,このぬた場において森林棲両生類が繁殖することが報告されている.このことから,イノシシのぬた浴びによる物理的な水場環境の改変が,両生類の個体群や繁殖可能性に影響を与えている可能性が考えられる.そこで本研究では,千葉県南房総市の水場57ヶ所を対象に,目視調査による両生類の繁殖有無の確認と水場環境データの取得,自動撮影カメラ調査によるイノシシのぬた浴び時間の測定を行い,両生類の繁殖に対するイノシシのぬた浴びの影響を評価した.その結果,千葉県の要保護生物に指定されているアズマヒキガエルや環境省によって絶滅危惧種に指定されているトウキョウサンショウウオなどの4科5種の両生類の繁殖が確認された.また,ぬた場の利用割合の高かった上位2種の両生類種について,水場環境の選好性についてNMDS法によって解析した結果,干上がりにくい水場が好まれる傾向にあった.そこで自動撮影カメラのデータを用いて,イノシシのぬた浴びが水の保持能力にどのような影響を与えるかを調べた.具体的には,両生類の繁殖期間(3月から7月)に水が保持されているかに対して,過去1週間および前年秋の総ぬた浴び時間の長さがどのように影響しているのかを状態空間モデルを用いて解析した.また,一度水が失われた水場の再生にぬた浴びが寄与するのかも同時に評価した.その結果,イノシシのぬた浴びは,水場の再生には影響しないものの,前年の秋に水深を深くすることを通じて間接的に水保持能力を向上させていたことがわかった.これらの結果から,イノシシは,水場環境を物理的に変化させることによって水場を維持し,間接的に森林棲両生類の繁殖成功を高めることが示唆された.


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