| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-051 (Poster presentation)
近年、配偶過程に生じる負の種間相互作用である繁殖干渉が、近縁種間の排除要因として注目されている。一方、植食性昆虫では、異なる餌資源を利用することで繁殖干渉を緩和できる可能性がある。餌資源の分布は、生物の空間だけでなく時間的な分布をも規定すると考えられるが、これまでの研究では餌資源の違いに伴う空間的すみ分けのみに焦点が当てられてきた。
アカアシノミゾウムシOrchestes sanguinipes(以下、アカアシ)とヤドリノミゾウムシOrchestes hustachei(ヤドリ)はどちらもケヤキに生息する。著者らは、これまで2種間に潜在的な繁殖干渉の存在が示唆されることを報告してきた。アカアシは芽吹き始めの葉に産卵するが、ヤドリは葉にできる虫こぶに産卵することが知られる。2種の産卵基質の出現時期の違いに伴い、アカアシとヤドリの出現時期にもずれがあれば共存は可能かもしれない。本研究では、この2種が産卵基質の違いにより時間的にすみ分けているという仮説を立て、2種の出現時期をスウィーピング法で調査した。
調査は、2023年3月25日、4月6日、4月21日にそれぞれ芽吹き始めていたケヤキ9~14本の樹冠で継続的に行われた。3~4日ごとに樹冠をスウィーピングし、捕獲されたアカアシとヤドリの個体数を記録した。調査の結果、芽吹き始めた日にかかわらず、アカアシは芽吹き始めから3日までにピークに達し、その後は急激に減少した。一方、ヤドリはアカアシのピークに遅れて増加し始め、その後増減を繰り返しながら緩やかに減少していった。この2種の捕獲個体数の時間変化パターンは有意に異なっていた。以上より、アカアシ-ヤドリ間では産卵基質の違いにより時間的すみ分けが生じていることが明らかになった。この時間的すみ分けにより、2種間の繁殖干渉は緩和され、共存が可能になっていると考えられた。