| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-052  (Poster presentation)

高山帯の雪渓上に見られる節足動物相と系外起源栄養塩の季節動態【A】
Seasonal dynamics of arthropod communities found on snow patch and nutrient derived from out side the ecosystem in alpine life zone【A】

*峯村友都(富山大学大学院), 和田直也(富山大学 GRASS)
*Yuto MINEMURA(Grad, Univ. Toyama), Naoya WADA(GRASS, Univ. Toyama)

 すべての動物にとって、食物の摂取は最も基本的な活動の一つである。また、動物の繁殖期における食物の利用可能性は、繁殖の成功を左右する重要な要素であり、生息地の質を決定する重要な要因である。春から初夏にかけて生態系の生産力が低い高山帯で生活を営む鳥類は、繁殖期に合わせて雪渓上に見られる節足動物の利用頻度を高めることが観察されている。これらの節足動物は、より生産性の高い低標高帯で発生し、風や飛翔によって高山帯まで輸送され、鳥類にとっての資源を補償する媒体として重要な役割を果たしている可能性がある。しかし、これらに関する基礎的な情報は不足しており、また、雪渓上での資源補償の重要性を付加される栄養塩の側面から評価した例も少ない。本研究は、富山県立山の高山生態系を対象に、雪渓上にみられる節足動物の種構成や個体数の季節変化を明らかにし、それらを餌資源として利用する消費者に及ぼす影響について考察した。2年間の調査の結果、観察された節足動物の個体数とバイオマスは、5月下旬から6月上旬にかけて最大となり、それは消費者の一種であるライチョウの産卵期と一致していた。この時期は、いずれも山地帯で発生したと考えられる小型の半翅目昆虫が優占していた。また、鳥類の卵形成に必要であり、生態系における物質循環の中でも重要な元素であるリン(P)に着目すると、個体数で優占するアブラムシ上科は乾燥重量あたり約1.5 %、キジラミ上科は約0.6 %含まれ、周辺に生育する植物の葉より高かった。抱卵糞からは雪渓上でみられた節足動物の遺伝子断片が検出されたため、雌親鳥による餌資源としての利用が確認された。本結果は、鳥類の餌要求度の高まる繁殖期に、採餌が容易で必須元素を多く含む資源としての節足動物が、隣接する生態系から供給されていることを示した。そのような資源の補償が高山生態系を構成する消費者に重要な役割を果たしている可能性が示された。


日本生態学会