| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-053 (Poster presentation)
群集の食物連鎖長(FCL)は,生態系の基礎資源から頂点捕食者までの栄養段階数と定義される。FCLは生態系のサイズと正の相関を示すという予測(生態系サイズ仮説)が支持されることは多いものの,その作用機序を示す証拠は乏しい。生態系内の基礎資源は消費者よりもN・Pの含有率が低い場合が多く,消費者はしばしばN・P制限にさらされるが,肉食傾向の大きい消費者はこの制限を克服することができる。したがって,生態系サイズとともにN・P制限が強まるのであれば,生態系サイズとFCLの間に正の相関が生じうる。
森林渓流では,渓畔植生由来の植物リターは河床に局所的に堆積して様々なサイズのリターパッチを形成し,各パッチには水生昆虫を主な構成種とする局所的な食物網が成立する。本研究では,渓流のリターパッチ群集について,基礎資源と消費者の安定同位体比(δ13C,δ15N)から,FCL決定についての生態系サイズ仮説を検証し,パッチサイズと群集構成や消費者の元素比(C:N:P)との関係から,生態系サイズ仮説の作用機序を検討した。パッチサイズの増加にともない,栄養的に高質な藻類由来の系外資源が得にくくなるためN・P制限は強まり,肉食傾向の大きい消費者が出現するという予測を設定した。
多摩川水系の熊倉沢において調査を行った結果,リターパッチ群集のFCLについて生態系サイズ仮説は支持された。大面積パッチほどC:N比,C:P比が低い一次消費者は少なく,消費者に対するN・P制限を示唆する証拠が得られ,パッチサイズとN・P制限の関係に関する予測に整合した。群集の種数と構成はパッチ面積と強い関係性を示したのに対し,いずれの捕食者種にもパッチ面積による栄養段階の種内変動は認められなかった。これらのことから,生態系サイズと群集のFCLとの正の関係は,パッチサイズ増加にともない高次捕食者種が追加されることで生じたことが示された。