| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-055 (Poster presentation)
自然の光周期や光の有無は多くの生物の生理機能や行動パターンなどを制御する重要な役割を果たす。そのため、人口の増加や都市化に伴い増加する人工光は、夜間における生物の生息環境を変化させ、多くの生物に影響を及ぼすことが問題となっている。これまでの夜間人工光が及ぼす影響を調べた研究のほとんどは陸上の生物におけるものであった。一方、沿岸部は多くの大都市が存在し人口が集中するエリアであるにもかかわらず、夜間人工光が海洋生物に与える影響については不明な点が多い。また、夜間人工光の影響に関する研究は、主に単一または少数の種のみを扱っており、群集レベルに焦点を当てたものはほとんどない。そこで本研究では、夜間人工光が海洋付着生物群集の遷移初期段階における群集構造や生物量、種多様性に与える影響を明らかにすることを目的として野外における操作実験を行った。
野外実験は2023年6月から9月の12週間にかけて、厚岸湾の沿岸部において行った。夜間に白色LEDで照射する光処理区と光を照射しない対照区を設定し、それぞれに15cm四方の塩化ビニル板を15枚設置した。4週間ごとに付着板に加入した生物の種同定および生物量、被度、種数の記録を行い、光照射の影響を調べた。 その結果、光処理区の付着板上の総生物量(乾燥重量)と被度は対照区と比較し有意に低い一方、種数は光処理区において有意に高かった。個々の種では、対照区で優占していたエゾカサネカンザシゴカイおよびオベリア科のヒドロ虫で光処理による有意な被度の低下が確認された一方で、被覆性褐藻の一種では光処理区で被度が有意に高かった。群集構造についても処理区間で有意な違いが認められた。
本研究は夜間人工光が遷移初期の海洋付着生物群集に影響を与えることを実証した。観察された変異が生じた原因として、夜間人工光が負の光走性を示す幼生の加入を抑制したことや、捕食者を誘引して優占種に対する捕食圧が高まったことに起因する可能性がある。