| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-056 (Poster presentation)
グルーミングは様々な動物で見られ、体表を清潔に保つだけでなく、毛や羽のメンテナンス、社会的コミュニケーション、あるいは精神的安定などの機能を有する。その他のよく知られた役割として外部寄生虫の除去があげられるが、グルーミングの効果は必ずしも十分に発揮されているわけではない。例えば外来哺乳類において、侵入先で出会う外部寄生虫を除去できる種とそうでない種がおり、性能の種差が指摘されている。
国内に広く定着が認められる特定外来生物のクリハラリスには、本種の持ち込みとともに随伴侵入した外来のシラミ類に加え、日本在来のマダニ類やツツガムシ類およびノミ類が重度寄生する場合がある。本種は他のリス類と同様にセルフグルーミングを行うことが知られているが、もしかしたら本種におけるこの行動は外部寄生虫の除去に寄与していない可能性がある。そこで本研究では、駆除個体の胃内容物調査および野外における行動観察を通じてこの仮説を検証した。
胃内容物調査には、2018年12月以降に神奈川県の複数地域において害獣駆除され、冷凍保存されていたクリハラリス121頭を検体とした。検体を解剖後、摘出した消化管を開いて実体顕微鏡下で外部寄生虫の有無を精査した。行動観察は同県横浜自然観察の森を調査地とし、2023年6月から2024年1月まで夏季7~10月を除いて毎月3~4日間実施した。観察時には距離をとりながら個体を動画撮影し、グルーミングの部位や頻度および順序を記録した。
解剖の結果、胃および消化管から未消化物としてのダニ類とノミ類の遺骸が1例(各1個体)ずつに加え、シラミ類の遺骸が5例(平均2個体/頭)得られた。行動観察においては、個体差があまりにも大きく、特定の部位への偏りも認められなかった。以上の結果はグルーミングが外部寄生虫の除去に役立っていない可能性を支持するものであり、別の役割を検討すべきかもしれない。