| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-060 (Poster presentation)
我々ヒトは初めて会った他者とも協力し、見ず知らずのヒトのために募金などを行うといったように強い向社会性(他者に利益を与える性質)を持っている。このように、ヒトを特徴づける強い向社会性の進化起源を解明することは、進化生物学における恒久的な課題である。哺乳類において向社会性は神経ペプチドの一種であるオキシトシンが、重要な役割を果たすことが知られている。オキシトシンは、そのオーソロガスな分子が、脊椎動物を通して高度に保存されているものの、脊椎動物のうち最も古くに分岐した魚類においてこの神経ペプチドが向社会性にどのような影響をあたえているのか分かっていない。そこで我々は、向社会的選択課題(PCT)とオキシトシン受容体拮抗剤(ORA)の経口投与を組み合わせた実験を、中米産カワスズメ科魚類であるコンビクトシクリッド(Amatitlania nigrofasciata)に対して行った。PCTとは、実験個体に自身と実験パートナーの両者に報酬(餌)が与えられる『向社会的選択肢』と、自身のみが報酬(餌)を受け取れる『利己的選択肢』の両方を提示し、実験個体がどちらを選ぶかを調べるといった実験パラダイムである。先行研究により、コンビクトシクリッドはペア雌が実験パートナーの場合、向社会性的選択肢を積極的に選択することが知られている。本研究では、コンビクトシクリッドの雄にORAもしくは溶媒のみを経口投与し、向社会的選択割合を比較することで, 向社会性に対するオキシトシンの機能を調べた。その結果、溶媒投与群では経日するにつれて向社会的選択割合が上昇する傾向が見られたが、ORA投与群ではこのような傾向は見られなかった。本研究の結果は、ヒトを含む多くの脊椎動物が有する向社会性について、その至近メカニズムの進化的起源が魚類との共通祖先にまで遡ることを示唆するものである。