| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-063  (Poster presentation)

社会性ハダニにおける血縁認識と致死的雄間闘争:血縁と馴染みの影響【A】
Kin recognition and lethal male fight in a social spider mite: Influence of kinship and familiarity【A】

*谷野彩奈, 佐藤幸恵(筑波大学)
*Ayana TANINO, Yukie SATO(Tsukuba Univ.)

自然界ではメスをめぐる雄間闘争がよくみられ、その多くが殺し合いまで発展しないものの、ごく一部の動物では致死的雄間闘争がみられている。その進化の説明の一つに非血縁者を殺して血縁者の適応度を上げるといった血縁選択説があげられる。ススキスゴモリハダニ種群はススキに寄生し、集団で共同営巣を行う社会性ハダニであり、致死的雄間闘争を行ってハーレムを形成する。本ハダニ種群における致死的雄間闘争の進化を血縁選択説で説明するならば、非血縁者を選択的に殺すべく、血縁者と非血縁者を識別する能力が求められる。しかし遺伝的血縁関係を操作した先行研究では、オスが非血縁者を率先して殺害する行動は観察されなかった。一方、近年の研究により、実際の遺伝的な血縁関係ではなく、ともに過ごしたかどうかの関係性に基づいて血縁認識する行動がダニ類ではみられている。本ハダニ種群のオスにおいても、ともに過ごした関係性により血縁認識している可能性は十分に考えられる。そこで本研究では、最も激しい致死的雄間闘争がみられるススキスゴモリハダニHG型を対象に、遺伝的血縁関係に加えてともに過ごした関係性が致死的雄間闘争に与える影響を調査した 。これら関係性が異なる組み合わせでオス2匹のペアをつくり、5日間戦わせた結果、致死的闘争の頻度に対してともに過ごした関係性の影響はみられなかった。 一方、遺伝的な血縁関係の影響がみられ、血縁選択説の予想に反して、遺伝的血縁ペアで致死的闘争の頻度が高かった。先行研究と本研究では発育環境や雄間闘争時の日齢が異なり、これら条件の違いが結果に影響を与えた可能性がある。このことから本種の致死的雄間闘争には血縁関係だけでなく、環境要因も関係していると考えられる。今後は、日齢や経験といった血縁以外の要素が致死的雄間闘争に与える影響を調査する必要がある。


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