| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-064  (Poster presentation)

キチマダニの鉛直分布は成長段階と湿度条件の影響を受ける【A】【O】
Vertical distribution of Haemaphysalis flava (Acari: Ixodidae) is affected by life stage and humidity conditions【A】【O】

*河野啓太, 菊地デイル万次郎(東京農業大学)
*Keita KOUNO, Dale Manjiro KIKUCHI(Tokyo Univ of Agriculture)

 マダニは下層植生上で動物を待ち伏せ,通過する動物に外部寄生する.マダニはこの宿主を探索する高度(questing height)を想定宿主に合わせて宿主選択すると考えられてきた.探索高度は各成長段階(成虫,若虫,幼虫)で異なることが知られているが,これらの差異を制御する具体的な要因についてはこれまで不明であった.例えば乾燥はマダニにおける最も主な死因であり,探索高度を制限する要因になるかもしれない.
 そこで本研究は,国内に普遍的に分布し,ジェネラリストとして知られるキチマダニ(Haemaphysalis flava)を対象に,各成長段階の探索高度が湿度条件を含む環境条件の変化によってどのように制御されているのか野外調査の結果から分析した.本研究では調査者にフランネル布を巻き付け,体に付着したマダニの高さを探索高度として計測した.また,採集地点の環境条件(温度,相対湿度,土壌水分量,植物体の高さ)も同時に計測した.
 統計解析の結果 ,キチマダニの探索高度は成長段階の更新と相対湿度の増大によって上昇する傾向が示された.さらに相対湿度変化に対する探索高度の応答は各成長段階で異なり,幼・若虫では相対湿度の増大が探索高度の上昇と関連している一方,成虫は相対湿度影響を受けず,高い高度で探索していた.
 幼・若虫の探索高度は相対湿度が制限となっており,湿潤な環境下では探索高度を上昇させ,より吸血耐性が高く充血速度が向上する大型宿主を探索するだろう.乾燥耐性が高いとされる成虫は湿度変化にかかわらず探索高度を高い位置にとどめ,大きな宿主を探索するとともに,交尾相手との接触機会を増大させるのかもしれない.本研究の結果は,ダニの探索高度を制御する要因が湿度条件と成長段階の更新に伴う乾燥耐性の獲得であることを示唆する.


日本生態学会