| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-066 (Poster presentation)
サンゴ礁は多くの生態系サービスを有する重要な生態系であるが、近年衰退傾向にある。特に、頻発するサンゴ捕食者のオニヒトデの大量発生による食害の影響は大きく、サンゴ保全のために様々な地域で大きなコストと人手をかけた駆除が実施されている。こうした駆除の効率化には、オニヒトデがサンゴを認識し捕食するメカニズムの解明が役立つと考えられる。一般的に、ヒトデの餌の認識は嗅覚に依存していることを踏まえて、本研究では、オニヒトデが嗅覚を使っていつどのようにサンゴを認識・捕食するのかを明らかにするべく、オニヒトデゲノム中の嗅覚受容体(OR)遺伝子の同定とその発現解析、そして飼育による行動実験を行った。まず、インド洋・太平洋の様々な海域から得られたオニヒトデのゲノムからOR候補遺伝子群を同定し、さらに遺伝子構造の精査によって機能的なOR遺伝子を絞り込んだ。その結果、どの海域のオニヒトデでも約500個の機能的なOR遺伝子を持つことが確認された。次に、サンゴ捕食時とサンゴの臭いのない時のオニヒトデの嗅覚器官(感覚触手)における遺伝子発現を比較したところ、2個のOR遺伝子がサンゴ捕食時に有意に高く発現していた。続いて、Y字水槽の各区画に生きたサンゴとサンゴの骨格を設置し、オニヒトデの行動を観察した。その結果、オニヒトデ産卵前(産卵中)にあたる時期には、オニヒトデはサンゴ側に有意に移動し(19/30,P=0.05)、胃の反転が観察されることもあったが、オニヒトデ産卵後の時期には、オニヒトデはサンゴ側に移動しない結果となった(6/22,P=0.97)。このことから、オニヒトデは栄養要求の高い産卵前(中)には生きたサンゴの臭いに反応して移動するが、産卵後にはそのような行動が見られない可能性が示唆された。今後オニヒトデの時期による行動の違いの要因の解明やOR遺伝子がサンゴの探索にどの程度寄与しているのかを明らかにすることで、より効率的な駆除方法の開発に繋がると考えられる。