| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-067 (Poster presentation)
翼は鳥類を特徴づける構造である。鳥の翼の機能を理解するには、環境の制約によって異なる形態的な特徴を鳥の種間で見つけることが重要になる。これまで翼全体の形として、羽毛や骨格に関する研究が進められてきたが、多くの先行研究では、種間での形態の違いのほとんどが鳥類の系統関係によって説明され、生息ハビタットや行動特性との関連は弱いとされている。しかし、より詳細に翼の形態を評価することで、種ごとの様々な生態との関係が示される例も見られる。一方で、翼を形成する部位として「翼膜」がある。翼膜とは皮膚と筋肉で構成される構造である。翼膜に関しては、「翼膜がないと鳥の翼は平面的で非機能的な形状になってしまう」、「翼膜は前腕部の伸展を制限して翼の形状に強く影響する」といったことが古典的な研究で言及されているものの、現生鳥類に関する研究は非常に少ない。そこで本研究では、翼を支持し、飛翔するための揚力を生み出すとされる「翼膜」に焦点を当てた。未解明なことの多い翼膜を詳細に観察して、生息環境などとの関係を調べた。これまでに、生息環境を考慮した5目、11科、12種の鳥について、翼膜の計測を実施した。翼の羽根を全て除去し、Propatagium(肘)、Metapatagium(脇)、Postpatagium(手首)の3つの翼膜を撮影しImageJで計測した。さらに、tpsdig264によりセミランドマーク座標を記録した。R の geomorphを用いてセミランドマーク解析を実施し、各鳥種の翼の形態の特徴を表す主成分と生息環境との関係を調べた。その結果、Propatagiumでは形態への生育環境の強い効果が検出され、海洋に生息する種、湖沼などの水域の種、それ以外(都市、森林)の3つのタイプに分けられた。その他の2つの膜については、生息環境との関係は検出されなかった。さらに、Propatagiumにおいて「力こぶ」に相当する特徴的な構造が見出された。この筋肉は、羽ばたき飛翔を行う種において羽ばたきの調整を担ってる可能性があり、今後注目していく。