| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-069 (Poster presentation)
野ネズミは秋になると堅果を採餌するが、全ての樹種のものを簡単に利用できるとは限らない。クリの堅果は、棘に覆われた殻斗(毬)に包まれており、物理的に防御されている。しかし、その後に毬が裂開すると堅果が露出する。初秋は毬に包まれた状態で落下することが多い。野ネズミがこれを利用するためには、毬を破壊する必要があり、単にクリ堅果だけを採餌するよりも時間がかかる。つまり、捕食者に襲われる、また競争者に妨害されるリスクが高まるだろう。したがって、野ネズミは毬に包まれた堅果を採餌対象にしないのだろうか?あるいは、周辺環境の安全性を確認し、毬を破壊して堅果を利用するのだろうか?これらの疑問を検証するために、捕食リスクが異なると考えられる2つの森林環境(林縁を境界とする内側と外側)において、クリ堅果の供試実験を初秋に実施した。供試したのは、毬が完全に閉じている堅果と、それよりも破壊しやすいと考えられる、毬が少しだけ開いた(露出はしていない)堅果の2種類である。これらを同時に林床に置き、訪問した野ネズミの行動を撮影・解析した。
その結果、どちらの森林環境においても、野ネズミは毬が完全に閉じている堅果を利用しなかった。毬が少しだけ開いた堅果は、林縁内側でのみ利用し、その場で毬を破壊して持ち去った。ただし、毬の破壊は数回に渡る訪問で完了することが多く、平均合計時間で12分45秒も要した。また、その破壊行動中に他個体に妨害されたケースも見られた。一方で、林縁外側では、野ネズミは毬が少しだけ開いた堅果に何度か興味を示したものの、利用しなかった。堅果への訪問頻度は林縁外側よりも林縁内側で有意に高かった。以上の結果から、野ネズミは、たとえ毬に包まれていても、少しでも破壊し易い堅果を選択し、捕食リスクがより低いと考えられる林縁の内側で積極的に採餌することが明らかになった。