| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-071  (Poster presentation)

リスクを背負っても飾りを付ける:トビケラが纏う装飾の機能【A】【O】
Risk and benefit of the decoration in a case building caddisfly【A】【O】

*板倉拓人, 加賀谷隆(東京大学)
*Takuto ITAKURA, Takashi KAGAYA(Tokyo Univ.)

動物には,体や巣に生物遺骸などの素材を取り付けて「装飾」を行う種が多く存在する.装飾には捕食回避などの機能が一部の種で示されているものの,ほとんどの装飾種においてその機能は不明のままである.河川に生息する水生昆虫のトビケラには,幼虫が植物片などを用いて筒巣と呼ばれる巣を作り,その中に入って生活をする種が多い.キタガミトビケラは,筒巣から紐状の支持柄を伸ばして河床の石礫に固着し,流れてくる流下動物を捕獲し摂食する.本種の幼虫には,針葉などの棒状の植物片を筒巣に付けて装飾を行う個体が存在し,流速が低い場所に生息する個体ほど装飾量は多い.本種の装飾には,リターへの偽装などによって魚類の捕食を回避する,あるいは筒巣周辺の水流を変えて採餌効率を高めるといった機能が予想される.本研究は,本種の装飾について,魚類の捕食や流下動物の採餌に関する機能を明らかにすることを目的とする.
本種の装飾個体と非装飾個体を底生魚のカジカに同時に呈示すると,カジカは装飾個体を3倍多く攻撃した.装飾があると水流による筒巣の揺れが増加し,魚類の視認性を高めてしまうと推測される.カジカが本種の個体を口に入れると,幼虫を筒巣ごと吐き出す場合がある.装飾個体と非装飾個体をそれぞれ別にカジカに与えた結果,その比率は装飾個体のほうが5倍高かった.さらに,装飾個体から装飾片をすべて除去し,除去前後における流下動物の採餌効率を比較すると,高流速環境下では変化は認められなかったものの,低流速環境下では平均で10%低下した. したがって,キタガミトビケラの装飾には,捕食者の呑み込みを防ぐ機能と,自身の採餌効率を向上させる機能があることが明らかにされた.装飾は捕食者に攻撃されやすいリスクを高めるが,それを上回る利益をもたらすと考えられる.動物における装飾の適応を理解するには,その機能とともにコストを明らかにすることが重要である.


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