| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-072 (Poster presentation)
害虫駆除における簡便かつ安価な方法として熱処理がある。効果的な暴露条件をチャバネゴキブリで検討していたところ、高温化で多数の個体が繰り返し身を寄せ合う行動を示すことに気づいた。本種は群れを形成することで知られているが、個体同士にはテリトリーがあり、通常はそれを越えることはない。
類似した現象として、動物の中には身を寄せ合うことで過酷な環境を生き抜くものがいる。そうした行動はhuddlingと呼ばれており、体温調節にかかるエネルギーの節約や水分喪失を抑える機能を有する。本種は脱水に対して脆弱であるため、凝集行動には高温時の水分喪失を防ぎ、延命をもたらす効果があるのかもしれない。これを検証するために、群れサイズと温度の条件を操作して行動観察し、ノックダウン時間および致死時間を調べた。
本研究では、飼育系統の成虫をCO2麻酔して自作のアクリル製ケースに放虫し、麻酔から覚めた後に加熱してノックダウンおよび致死までの時間を動画撮影から割り出した。実験条件として、群れサイズをオスメス1~5ペアの5段階とし、暴露温度を40~60℃の5℃刻みで5段階とした。コントロールには、加熱しない場合の行動を飼育温度30℃で観察するとともに、凝集できないように暴露ケース内に仕切りを設けて上記の群れ5段階および温度5段階を検討した。なお、これら全ての条件において実験を3回繰り返した。
観察の結果、ペア数の増加および温度が高くなるにつれ、凝集の頻度も増える傾向が認められた。凝集行動は単にぶつかりあっているわけではなく、数秒から10秒程度の持続時間が見られた。自由に凝集させた場合と凝集を阻害した場合でノックダウン時間には明瞭な差が見られなかったが、致死時間には開きが認められ、凝集による延命効果が支持された。本研究では小集団の条件を検討したが、サイズの大きな実際の集団では凝集の効果はさらに顕著かもしれない。