| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-073 (Poster presentation)
動物の社会性は、主に高度な社会行動を有する分類群を用いて調べられてきたが、そのような分類群では社会行動が単純な状態からどのような過程を経て複雑化するかについて調べることはできない。対してトカゲ類は、ほぼ社会性をもたない種から高度な社会性を示す種を含むため、複雑な社会行動の進化について調べるうえで格好の研究対象である。カナヘビ属は単独棲で社会性をもたないとこれまで信じられてきたが、一方で一部の種は腕振り行動と呼ばれる前腕を円を描くように回転させるディスプレイを示すことが知られている。日本固有のカナヘビ属であるニホンカナヘビも、本行動を同種他個体に対して行うことが経験的に知られていた一方で、これまで定量的な研究はなく、その機能は不明であった。本研究では、カナヘビ属の社会性について評価する第一歩として、日本固有のカナヘビ属であるニホンカナヘビを用いて、腕振り行動の機能について検証した。2023年6~9月において、野外にて採集した本種36個体から二個体をランダムに選んで実験アリーナ内に30分間放逐し、対面させる室内実験を行った。ビデオカメラを用いて無人撮影し、腕振り行動とその直前および直後に二個体それぞれが示した行動を記録した。その結果、本行動を受けた個体は相手に接近する頻度が減少した一方で、逃避または静止する頻度は上昇した。このことから、本行動は種内コミュニケーションにおいて同種他個体の接近を抑止し、他個体の逃避を促す機能をもつことが示唆された。本行動はカナヘビ科の他属やアガマ科では対捕食者行動や種内コミュニケーションのための機能をもつと考えられている。特にカナヘビ科の他属においては、同種他個体に対して威嚇や服従を示すために用いられていると推測されており、本種でも同様に腕振り行動は威嚇または服従を示すシグナルである可能性が示唆された。