| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-077  (Poster presentation)

自然および人為撹乱による採餌環境の変化がモモジロコウモリの採餌行動におよぼす影響【A】【O】
Changes in bat foraging behavior due to natural and artificial disturbance of the foraging environment【A】【O】

*平尾碧大(同志社大学)
*Tamao HIRAO(Doshisha Univ.)

動物は餌密度等,餌場の環境に応じて,自らの行動を変化させることで効率よく採餌を行う戦略を持つと考えられる.しかし,野生動物の採餌行動を定量的に把握するのは難しい.そこで本研究では水生昆虫を水面上で捕食するモモジロコウモリに着目することで,エコーロケーション音声から餌場の入出時間,採餌のタイミングや回数を計測し,餌場の人為撹乱(池底土砂の排出工事)および自然撹乱(台風による出水)による環境変化にともなう採餌行動の変化を調査した.観測は,北海道大学苫小牧研究林内の幅20mの池周囲に,16chのマイクロホンアレイを設置して行った.結果,工事後池に訪れるコウモリの数が減少し(工事前:1.04個体/分,後:0.68個体/分),また1個体あたりの採餌回数も減少していた(工事前:1.31回/個体,後:0.63回/個体).特に環境変化後には採餌を行わずに池を退出する個体の割合が多く(工事前:51%,後:59%),池での滞在時間も短いこともわかった(工事前:23.2±24.4秒,後:14.6±13.5秒).飛行軌跡からは,工事前はコウモリが池上を周回しながら探索する様子が確認できるが,工事後は池に訪れた後,直ちに退出していることがわかった.また同様に,台風の到来後でも採餌を行わずに池を退出する個体の割合が多いことや(台風前:58%,後:83%),池全体を積極的に探索していないことがわかった.よって人為または自然撹乱による餌場の環境変化は,モモジロコウモリが捕食する水生昆虫を一時的に減少させたと考えられる.また実験池と研究林内の別の池で音響による活動量を推定したところ,工事後,実験池では活動量が約半分に低下した一方,別の池では徐々に活動量が増加する傾向が見られた.これらのことは,モモジロコウモリが研究林内にある複数の餌場を有機的に利用することで,個々の餌場の環境変化に対応していることを示唆している.


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