| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-078  (Poster presentation)

スズキの河川への回遊は採餌と関係するか:硫黄安定同位体比と耳石化学組成による探究【A】【O】
Does migration to rivers in Lateolabrax japonicus relate to foraging: an exploration using stable sulfur isotopes and otolith chemical composition【A】【O】

*目戸綾乃(京都大学), 高井万葉(東京大学), 黒木真理(東京大学), 三田村啓理(京都大学), 久米学(京都大学), 鈴木啓太(京都大学), 児嶋大地(京都大学, いであ株式会社), 和田敏裕(福島大学), 山下洋(京都大学)
*Ayano MEDO(Kyoto University), Kazuha TAKAI(The University of Tokyo), Mari KUROKI(The University of Tokyo), Hiromichi MITAMURA(Kyoto University), Manabu KUME(Kyoto University), Keita W SUZUKI(Kyoto University), Daichi KOJIMA(Kyoto University, IDEA Consultants, Inc.), Toshihiro WADA(Fukushima University), Yoh YAMASHITA(Kyoto University)

スズキ (Lateolabrax japonics) は、日本の沿岸域に広く生息する海産魚類であり、冬にやや沖合で産卵する。スズキ成魚のうち一部の個体が春から秋に河川へ回遊するが、河川を生息域として利用する生態学的意義はほとんど知られていない。硫黄安定同位体比(δ34S)は、河川または海の間で動物が摂取した餌の由来を推定する手法として用いられる。また、耳石Sr/Ca比は、環境塩分に対応して値が変化する。そこで本研究は、生殖腺のδ34Sと耳石のSr/Ca比を用いて、スズキ成魚が産卵期にあたる冬季よりも前に、採餌のために河川を利用しているのかを調べた。調査は、京都府北部の丹後海で実施した。2021年1–2月に丹後海の定置網漁で捕獲されたスズキ成魚86個体から生殖腺を採取し、元素分析計付き同位体比質量分析計を用いてδ34Sを測定した。このうち32個体から耳石を採取し、電子線マイクロアナライザを用いてSr/Ca比を測定した。δ34Sの結果から、スズキ成魚86個体のうち15個体が河川由来の餌を主に摂餌していたと推定された。δ34Sの推定結果に基づき、河川摂餌群と海摂餌群に分けてスズキ成魚の肥満度を比較した結果、群間で有意差は認められなかった。このことから、スズキ成魚は河川へ回遊しても、海に残留した個体と同等の栄養状態を維持できると考えられた。耳石Sr/Ca比の結果から、スズキ成魚32個体のうち7個体が捕獲から半年前までに河川滞在履歴を有し、うち5個体が河川で主に摂餌していたと推定された。一方、河川滞在履歴のない25個体中22個体は、海を主要な摂餌場所としていたと推定された。河川回遊個体および海滞在個体と主な摂餌場所の一致率は84%(27/32) であった。以上より、スズキ成魚が海と河川の両方で採餌することは、個体群全体における摂餌の機会を増やせる点で適応的な行動と考えられる。


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