| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-080 (Poster presentation)
社会性昆虫において,巣仲間と非巣仲間の識別は社会システムの維持に不可欠である.一方で,巣仲間識別をかいくぐることで他種の労働力を利用する社会寄生種も存在する.このような寄生者が宿主との共存を実現させるメカニズムを明らかにすることは,巣仲間識別の行動生理学的基盤のより深い理解に繋がる.
本研究では,他種による寄生 が宿主の巣仲間識別に与える影響を明らかにするために,社会寄生種アメイロケアリLasius umbratus(アメケ)とその宿主トビイロケアリL. japonicus(トビケ)を利用した.アメケの女王はトビケの巣に侵入したあと,トビケの女王を殺して巣を乗っ取り,アメケの働きアリを生産する.そのため,トビケの働きアリがアメケの働きアリに完全に置き換わるまで,巣内では両種が共存した状態が保たれる.
我々は,アメケと共存状態にあるトビケの巣仲間識別パターン を明らかにするため,敵対性試験を実施した.トビケの働きアリに対して様々な条件の相手を提示し,5段階で敵対性を評価した.その結果,通常のトビケでは同種・異種に関わらず一貫した非巣仲間への高い敵対性が認められた.一方で,寄生されたトビケはアメケのみならず非巣仲間のトビケに対しても敵対性を示さなかった.ただし,ポジティブコントロールとして提示したハヤシケアリに対しては敵対性がみられたことから,寄生されたトビケ は攻撃行動そのものを抑制されているのではなく,他個体を認識するパターンが変化していると考えられる.アメケ は今まで社会寄生において知られていた化学擬態だけでなく,宿主の認知機構を改変することで宿主からの攻撃を回避し,共存を実現させている可能性がある.