| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-085 (Poster presentation)
餌資源の探索には時間やエネルギーといったコストがかかる。そのため、餌資源を効率的に発見、選択する能力は、探索にかかるコストを抑え生存に有利に働くと考えられる。訪花性のチョウは一般的に鮮やかで目立つ花によく訪れるが、そうした花が稀な環境では、地味で目立たない花を発見することが適応的だと考えられる。花は花弁等の自身の形質だけでなく、そこに訪れる訪花者の存在も他者にとっては花を認知する情報となりうる。また、訪花性のチョウは吸蜜源となる花を、主に視覚を頼りに探索する。したがって、チョウにとって、花上の他の採餌者の存在は、目立つ花が少ない状況下で、その代わりとなる地味で目立たない花の発見、選択を行うための重要なシグナルとして機能する可能性が考えられる。そこで、本研究ではナミアゲハ(Papilio xuthus)を用いた訪花行動実験を行い、花の色と他の採餌者の存在がチョウの訪花行動に及ぼす影響を調べた。
はじめに、地味な花の模型にダミーの昆虫を設置した場合としていない場合での、ナミアゲハの訪花率を比較した。次に、二つの地味な花を並べ、一方にのみダミーの昆虫を設置し、ナミアゲハがどちらに訪花するかの選択実験を行った。これらの結果、ナミアゲハは訪花昆虫を設置した花に対し、有意に高い訪花率および選好性を示した。したがって、ナミアゲハが地味な花の発見、選択を行うために他の採餌者の存在を利用している可能性が強く示唆された。また、この傾向はメスよりもオスで顕著であり、これは雌雄間での視覚や採餌欲求の差によるものだと考えられる。これらの行動は、花の色や性差に依存した局所的強調(Local enhancement)であり、チョウは状況に応じた探索行動により、吸蜜源として適切な花を発見、選択している。こうしたチョウの訪花行動における局所的強調は初めての報告であり、季節により利用可能な花の色が変化する自然環境において、適応的であると考えられる。(論文投稿中)