| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-086 (Poster presentation)
宥和交渉の1つである社会的羽づくろいは,緊張低減などの社会的機能をもつだけでなく,外部寄生虫を除去する衛生的機能がある。その一方で,社会的羽づくろいは,物理的な身体接触を伴うため,外部寄生虫の伝播を促進する可能性もある。本研究では,ハシブトガラスの飼育群れを対象に,個体の行動とハジラミ数の経時的変化を記録し,以下の3つの予測に基づいて,個体の行動がハジラミ増減数に影響を与えるのか否かを調べた。(1)社会的羽づくろいを受ける時間が長いほど,それを受ける個体のハジラミ数は少なくなる。(2)社会的羽づくろいを行う時間の長さは,それを行う個体のハジラミ数に影響しない。(3)他個体との身体接触時間が長いほどハジラミ数は多く,身体接触時間が短いほどハジラミ数は少ない。本研究では,7か月間,社会的羽づくろいを行う時間,社会的羽づくろいを受ける時間,他個体との身体接触時間を記録し,ブラッシングでハジラミを採集面に落とすことで,個体が保有するハジラミ数を直接計測した。その結果,社会的羽づくろいに伴う身体接触時間が長い,あるいは気温が高いほど,2週間後の個体のハジラミ数が増加することを示した。ただし,身体接触時間の長さとハジラミ増減数との関係は,身体接触をする他個体のハジラミ数によって変化し,自分よりも身体接触をする相手のハジラミ数が多い場合に限り,身体接触時間の長さは2週間後の個体のハジラミ数に影響した。本研究の結果は,社会的羽づくろいにはハジラミ数を減らすという衛生的機能があるとする予測には反したが,社会的羽づくろいを行う時間の長さはそれを行う個体のハジラミ数に影響しないという予測と,身体接触時間が長いほどハジラミ数は多いという予測を支持した。本研究は,社会的羽づくいが,社会的機能だけでなく,身体接触に伴う外部寄生虫の感染要因であることを示唆する。