| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-089 (Poster presentation)
動物の行動には個体差がみられ、その個体差には継続性がみられることが近年明らかになってきた。このような安定的に維持される行動の個体差は個性と定義され(Carter et al. 2013)、行動特性として、大胆さ、探索性、攻撃性、活動性、社会性の5つが挙げられている(Reale et al. 2007)。また、行動特性間に相関がある場合を行動シンドロームと呼ぶ(Sih et al. 2004)。ハクセンシオマネキは、巣穴を掘って生活するスナガニ類である。本種でも個性、特に大胆さについていくつかの研究が行われている。しかしすべて短期間の研究で、個性と呼べるのかは不明のままである。
そこで、本研究では長期的な行動観察により、行動特性の継続性の有無を明らかにすることを目的とした。識別したオスをケージで飼育し、2023年の繁殖期の3回の大潮時に、各個体の活動を日中の干潮時にビデオカメラで撮影した。その映像を用いて再出現時間(巣穴個体を驚かせた時の、巣穴退避から再出現までの時間)、活動時間、waving(巨大ハサミを激しく振る行動)回数、威嚇回数、巣穴開口時間、巣穴閉口時間の計6項目を分析した。その結果、活動時間、waving回数、巣穴閉口時間の継続性はある程度示されたが、再出現時間、威嚇回数、巣穴開口時間には継続性がなかった。行動特性間の相関に関しては、再出現時間と活動時間・waving回数・威嚇回数・巣穴閉口時間、活動時間とwaving回数・巣穴閉口時間、waving回数と巣穴開口時間には相関がみられた。このように、再出現時間と活動時間は他の行動特性と関連が強かった。以上の結果より、一部の行動特性での継続性・相関性が見られたことから、本種においても個性と行動シンドロームの存在が示唆された。なお、本研究ではケージで複数個体を飼育したため、個体間相互作用が、行動特性の継続性、行動特性間の相関性に影響した可能性がある。