| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-090  (Poster presentation)

同所的に生息する二種のヤドカリの種間相互作用について【A】【O】
Interspecific interactions between two sympatric hermit crab species【A】【O】

*石動谷夏実, 凌千恵, 山田勝雅, 逸見泰久(熊本大学)
*Natsumi ISHIDOYA, Chie SHINOGI, Katsumasa YAMADA, Yasuhisa HENMI(Kumamoto Univ.)

「完全に同じニッチをもつ 2 種は共存できず、どちらか一方が排除される」(競争排除則)と考えられている。熊本県上天草市の永浦干潟には2種のヤドカリ類(ヤドカリ科テナガツノヤドカリ,ホンヤドカリ科ユビナガホンヤドカリ)が同所的に生息する。この2種は共通の貝殻資源を利用するが、利用可能な貝殻資源は不足しており、貝殻を巡る競争関係にあるとされる。本研究は、両種が共存できる理由を、分布や生息地選択、貝殻を巡る闘争に注目して行ったものである。
研究では、まず両種の分布の重複を明らかにするために2020年4, 7, 10月、2021年1月に永浦干潟の84地点で定量採集を行い、ヤドカリ類・巻貝の同定・計数を行った。また、微細な生息地利用を明らかにするために8, 10月に転石下と澪筋でヤドカリ類を採集するとともに、日陰や転石に対する基質選択実験を行った。さらに、貝殻を巡る闘争を明らかにするために両種を同じ水槽に入れ、一方に最適殻を、もう一方に窮屈な殻を与えて貝殻交換の有無、接近回数、闘争回数を記録した。
その結果、テナガツノヤドカリは主に干潟中部~上部に浅く埋在していたが、繁殖期の夏季には多くの個体が干潟下部に表在した。一方ユビナガホンヤドカリは主に干潟全体に表在したが、夏季に転石下や澪筋で多く見られ、基質選択実験でも同様の結果が得られた。これは、ユビナガホンヤドカリが北方系で暑さに弱いためと考えられる。なお、両種の分布はかなり重複していた。殻交換実験ではテナガツノヤドカリの方が優勢だったが、これは同サイズではテナガツノヤドカリのハサミの方が大きいためと考えられる。
このように、両種は貝殻を巡る強い競争関係にあり、また貝殻を巡る闘争ではテナガツノヤドカリの方が強いにも関わらず、共存していた。両種の食性や繁殖期、環境耐性などの違いが競争排除を起こさず、両種の共存を可能にしていると考えられる。


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