| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-092 (Poster presentation)
ヒトでは協力社会を維持するために、親のしつけから刑罰に至るまで幅広く罰が見られる。協力的な社会を持つヒト以外の動物でも、罰によって協力関係を維持している可能性があるが、集団内で罰として機能している行動を明らかにした研究はほとんどない。 協同繁殖種は協力的な社会を持つ動物の代表例であり、親以外の個体(ヘルパー)が親の子育てを手伝う。協同繁殖する魚類のヘルパーは親のなわばりへの滞在を許容してもらうために手伝う(pay-to-stay仮説)と考えられており、この仮説に従うと、親はヘルパーがサボる(手伝わない)場合、罰を与えると予測される。そこで、タンガニイカ湖に生息する協同繁殖魚サボリ(Neolamprologus savoryi)を対象に、血縁ヘルパー(繁殖個体の子)の手伝いを制限する水槽実験を行った。実験の結果、サボリの親は手伝いを制限されたヘルパーへの攻撃を増加させ、一方で、攻撃を受けたヘルパーは受けた攻撃時間の長さに応じて、その後のなわばり防衛(手伝い行動)を増加させた。また、手伝いを制限されても、親から攻撃を受ける前に手伝い行動を増やせる場合、ヘルパーはなわばり防衛を増加させ、親から攻撃を受けなかった。以上より、サボリの親の攻撃は、ヘルパーの手伝い行動を引き出すための罰として機能していること、また、ヘルパーは親からの罰の回避のために、攻撃に先立ち手伝ったと考えられ、協同繁殖魚類で初めて、罰として機能している行動を明らかにした。野外のサボリは、血縁度やヘルパーの数や性別、繁殖雄が囲う雌の数が異なる。そのため、水槽実験と同様の実験を野外で再現することで、水槽実験では得られなかったこれら複数の要因が協力社会を維持するための罰にどのように影響するかを評価できる可能性がある。本発表では水槽実験と野外実験、両方の結果から、罰が協力社会の維持にどのように貢献しているかについて議論する。