| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-094 (Poster presentation)
雌の配偶者選択性における変異は、性淘汰の強さや方向性に大きな影響を及ぼす。このような変異を生み出す要因として、雌の配偶者選択のコストを高める捕食圧や雄間競争などが知られているが、同様に配偶者選択コストを高めると予想される同性の競争相手である雌の存在が、雌の配偶者選択にどのような影響をもたらすかについては不明な点が多い。今回、雄が巣内で卵保護を行う河川性ハゼ科魚類カワヨシノボリを用いて、同性の競争者の在/不在を操作した水槽実験により、雌の配偶者選択性を調査した。雄を巡る競争相手となる雌が不在の水槽では、雌は求愛活性(雌への求愛時間により評価)の高い雄を好んだ。雄が子育てを行ういくつかの魚類において、雄の求愛活性は子の保護能力の指標となるため、雌は求愛活性に基づいて雄を選り好みすることが知られている。本種においても、雌は雄の求愛活性を手がかりに保護能力の高い雄を選んでいるのかもしれない。一方、競争相手の雌が3個体入った水槽においては、雌は求愛活性の高さに加えて、背鰭の短い雄を選好した。背鰭のサイズが雄のどのような質と関連するのかは不明だが、競争雌の存在により、本種の雌は複数の手がかりに基づいて雄を選り好みするといえる。配偶者選択のコストが高い状況下では、雌は配偶者選択性を示さず、ランダム配偶になると理論的には予測されているが、今回の実験結果は、配偶者選択のコストはむしろ雌の配偶者選択性を強める可能性があることを示唆する。発表では、本種における雄の卵保護コストの高さと配偶者選択から雌が得る利益の観点から、理論的な予測と今回の結果との不一致について考察したい。