| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-100  (Poster presentation)

ウグイの採餌形態における緯度クラインと生態学的要因【A】
Latitudinal cline and ecological factors in the foraging traits of  Japanese dace【A】

*武内優真, 植村洋亮, 小泉逸郎(北海道大学)
*Yuma TAKEUCHI, Yohsuke UEMURA, Itsuro KOIZUMI(Hokkaido university)

 多くの生物で形態や行動などの形質に地域差がある。形質変異は生物が生息環境に対しどのように適応・進化してきたのかを理解する手がかりとなる。淡水魚は生息環境が多様で遺伝子流動も少ないため地域変異が大きい。特に、口や鰓耙などの採餌形質は適応度に強く影響するため、複数の魚類で地域変異が調べられている。しかし、それぞれが単独で検討されており、複数の採餌形質の地域変異を検討した研究は少ない。ウグイは日本全国に分布する在来種で、多様な餌資源を利用する。さらに、口形態の変異が指摘されているが、程度や詳細なパタンは不明である。形質変異を扱った多くの研究では、緯度に沿って変化する温度などの物理環境と、それに伴い変化する餌資源や競争種の分布といった生態学的プロセスによって生じる“緯度クライン”が知られている。
 そこで本研究は緯度クラインに着目し、北海道から九州までのウグイ482個体に加え、web上に公開されている310個体の画像データを用いて採餌形質(吻長・上下顎長・頭高・鰓耙数)の変異パタンを調べた。
 その結果、低緯度ほど長い吻、短い下顎といった、底生食性を示唆する形質がみられた。低緯度域にはウグイとの競争が示唆されている淡水魚が分布するため、種間競争の結果、底生食性に適した採餌形質を獲得した可能性がある。なお、web上から集めた画像の解析結果も同じ傾向を示した。鰓耙は低緯度ほど多く、一般的な鰓耙の緯度クラインや、吻・顎から示唆される食性とは逆のパタンだった。これは河川特有の環境や種間競争により、低緯度域ほど小型の餌資源を利用しているからであると考えられる。本研究では複数の採餌形質の変異を同時に検討することにより、ウグイが従来の報告とは異なる採餌戦略をもつことが示唆された。今後、競争種や餌資源の分布を定量評価することで、それぞれの採餌形質にかかる選択圧とそれに対する適応・進化のプロセスを明らかにすることができる。


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