| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-102 (Poster presentation)
日本のアサリの年間漁獲量は1980年代から2000年までに12万t減少し、横ばいで推移している。その減少の主要因は特定されていないが、その一因としてPerkinsus属原虫の感染が疑われる。本虫の感染は宿主貝類の産卵量や摂餌能を低下させ、重篤感染された宿主は死に至る。重篤感染の見られる水域では、本虫はアサリ資源量の減耗要因の1つと考えられている。
本虫は感染期の遊走子がアサリに感染し、その体内で栄養体となる。宿主の死亡により組織が腐敗して嫌気的になると、それが引き金となり栄養体が前遊走子嚢となると考えられている。前遊走子嚢が海水中に出ると遊走子嚢に発達し、やがて遊走子を海水に放出する。一方で、野外の干潟で死んで腐敗したアサリを見ることは稀で、野外では宿主組織の腐敗以外の要因で栄養体が前遊走子嚢に発達する可能性が高い。そこで本研究では、死亡したアサリが腐食動物に摂食されたことを想定し、その消化管で栄養体が前遊走子嚢に発達するか実験的に調べるとともに、その遊走子の感染能を検討した。
消化管内での発達を調べるため、無給餌飼育後のアラムシロ(干潟の主要な腐食動物)を個別飼育して感染アサリの鰓を与え、糞を回収して半分に分けた。一方を2M水酸化ナトリウムで溶解したところ、全ての糞から本虫の前遊走子嚢が平均9細胞/個体確認された。もう一方をRFTM培地(嫌気的培地)で培養した結果、23~230細胞/個体が確認された。前遊走子嚢の感染能を評価するため、アラムシロに感染アサリの鰓を与え、糞を回収した。糞に本虫の前遊走子嚢が入っていることを顕微鏡下で確認後、水槽に未感染アサリと共に入れて一週間飼育した。アサリの鰓を観察したところ、102.5cell/軟体部湿重量の感染が認められた。これらのことから、本虫は腐食動物の消化管内で発達した後、他のアサリに感染できると考えられ、野外においても同様に発達する可能性が高いと考えられる。