| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-103 (Poster presentation)
新規環境への進出に際した生活史の変化パターンを理解することは、生物集団の存続可能性や適応過程を理解する上で重要である。先行研究では、生活史の集団平均のシフトについて研究蓄積がなされているが、生活史変異の多寡については研究が不足している。サケ科魚類の降海型としては、世界南限に分布するサツキマスでは、冷水性のために、高水温になる夏を海で過ごすことができず、回遊パターンが強く制限されていると考えられている(大多数の個体が1歳の秋に降河、半年回遊、春遡上)。一方、自然湖やダム湖では、海の半年回遊では達成されないような大型の回遊個体が報告されており、湖への進出に伴って、回遊パターンが多様化している可能性がある。本研究では、岐阜県の高根第一・第二ダム、滋賀県の琵琶湖、および長野県の諏訪湖において、降湖型サツキマスの回遊パターンを定量した。また、サケ科魚類に広く保存され、回遊年数を規定する成熟年齢関連遺伝子Six6とVgll3の遺伝子型と、降湖型サツキマスの回遊年数との関連を評価した。
その結果、いずれの湖でも、降河開始年齢はほとんどの個体で1歳の秋であった。しかし、高根第一・第二ダムと琵琶湖では、降海型には見られない、移住先で夏を越す滞在が見られ、それに伴って回遊年数が1-3年に、遡上時期が秋遡上になる多様な回遊パターンが見られた。一方、諏訪湖では、移住先で夏を越す回遊は見られず、降海型と同様の回遊パターンのみが見られた。低水温帯のある湖では、夏を越えて湖を利用することができ、多様な回遊年数や遅い遡上時期が許容されたと考えられる。夏の湖水温が高い諏訪湖で降海型と同様の回遊パターンしか見られないことは、このメカニズムの妥当性を支持する。湖への進出に伴う回遊パターンの多様化の背景に、どの程度遺伝基盤があるのかは現時点で明らかではない。しかし、降湖型オスの回遊年数について、six6の遺伝子型との相関が示唆された。