| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-105 (Poster presentation)
生息場パッチ間を頻繁に移動する動物では,各パッチにおける生息密度はパッチ自体の好適さとともに他のパッチとの連結性に左右され,連結性の効果は景観構造と個体の移動様式により決定される。ナベブタムシは河川に生息する水生昆虫で,千葉県養老川では岩盤上に堆積した砂礫パッチに生息が局限される。2022年8月に養老川において調査を行った結果,各パッチの生息密度に対する連結性の効果を生じるパッチ周囲の景観の範囲は,個体の移動様式と整合することが示されている。ただし,動物の移動様式は季節や個体の属性によって変動し,連結性の効果もそれにともなって異なる可能性がある。本研究はナベブタムシの移動様式(移動の頻度,方向,距離)について,季節および個体の性や成熟度による相違を明らかにすることを目的とする。
養老川の砂礫パッチ100個を含む120 m区間において,2023年6~8月の6日間に個体の標識再捕獲を行った結果,合計で396個体が再捕獲された。平均すると,特定のパッチにおける個体の滞在時間は1.2日以下,上流移動と下流移動の比は11:9,移動距離は3.7 m/dayであった。このことから,1週間の時間スケールでみると,連結性の効果は対象パッチから直径10 m程度の範囲にある景観構造により生じることが示唆された。6月から8月にかけてナベブタムシの移動頻度は低下し,上流移動の占める割合は増加した。この要因として,季節にともなう繁殖活動の低下,魚類による捕食圧の増加,流量減少による上流移動コストの低下が考えられる。産卵のために移動需要が高いと考えられるメスは,オスよりも移動距離は長かった。体の硬化が進んでおらず移動コストが大きいと考えられる未成熟個体は,成熟個体よりも移動は低頻度で,その距離は短かった。以上の結果は,季節およびナベブタムシの性や成熟度によって,連結性の効果を生じる景観構造の範囲は異なることを示唆するものである。