| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-106 (Poster presentation)
生活史の早い段階における経験が後の段階に与える影響の評価には、生物の長期間の生活履歴が必要である。生元素の安定同位体比分析は、組織形成時の生活履歴が得られる手法で、外側に層を形成するように成長する水晶体への利用が近年注目されている。両生類は生活史の移行に伴う環境変化が大きいため、同位体比の変化から生活史の時系列復元がしやすいと考えられるが、水晶体の利用可能性は未検証である。本研究では、両生類の水晶体の炭素・窒素安定同位体比(δ¹³C・δ¹⁵N)から過去の食性履歴を復元できるか検証することを目的とした。ヤマアカガエルとオットンガエル各2個体を対象として、幼生期はC4植物由来の餌(δ¹³C値が高い)、変態後はC3植物由来の餌(δ¹³C値が低い)を与え、変態後10-12か月飼育した。これら飼育個体と、野外のヤマアカガエル成体2個体について、水晶体の外側から中心部までを薄層に剥離し、各層のδ¹³C及びδ¹⁵Nを測定した。また、変態個体の体サイズと水晶体サイズの関係式を求めるため、上記2種変態個体の体重・頭胴長と水晶体半径を測定した。その結果、体重・頭胴長と水晶体半径は相関しており、相互に推定が可能であることが示された。飼育亜成体の水晶体の同位体比は、得られた推定式から推定される変態時の水晶体半径付近で大きく変化していた。δ¹³C値は、中心部は幼生期の食物の値、外側は変態後の食物の値にほぼ一致した。δ¹⁵N値は全て食物の値より高かったが、中心部は外側より値がさらに高かった。野外個体においては明確な同位体比の変化は見られなかった。カエルの水晶体は幼生期の値を中心部に、変態後の値を外側に表すこと、および、δ¹⁵N値は幼生期と変態後で濃縮係数が異なる可能性が明らかになった。カエルの水晶体を用いた同位体比の連続分析により、成体の組織から幼生時の履歴を得られることが示されたが、野外個体での活用には同位体比に影響を与える要因へのさらなる理解が必要である。