| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-109 (Poster presentation)
ドジョウは日本人にとって馴染み深い淡水魚の1つである.従来,国内のドジョウは1種として認識されてきたが,遺伝的なアプローチによって,狭義のドジョウMisgurnus anguillicaudatus(Type II種)の他に,遺伝的に大きく分化した隠蔽種M. sp. TypeI sensu Okada et al (2017)(Type I種)が存在することが明らかになった.これらドジョウ2種は分布域の大部分が重複するが,基本的に集団スケールでは側所的に生息するか交雑集団を形成することから,2種の繁殖集団が同所的に共存することは困難であると考えられる.しかし,福井県嶺南地域ではドジョウ2種が同所的に交雑することなく共存することが報告されており,両者間に何かしらの生殖隔離があると考えられる.また,人工授精を用いた掛け合わせ実験により,容易に2種間の健全な雑種個体を作出できたことから,嶺南地域では2種間には交配前隔離機構が作用している可能性が高いと考えられた.本研究では,共存するドジョウ2種間に成立する生殖隔離の機構を明らかにする一端として,各種の繁殖状況について調査した.調査を実施する上で,2種の仔稚魚の識別をおこなう必要があるが,2種の初期発育形態に関する知見は乏しい.そこで,飼育下で2種をそれぞれ繁殖させて得られた仔稚魚を基に,2種の成長段階ごとの形態的特徴の差異を把握した。それら踏まえた上で,実際の野外における2種の繁殖期と繁殖環境について調査した.福井県嶺南地域の笙の川水系の2種が共存する標高の異なる2つの生息地(中池見湿地:標高約50 m,池河内湿原:標高約300 m)で,ドジョウ類の活動期間(4月~11月)に当歳魚の定量採集調査と成魚の生殖腺重量指数(GSI)の推移について調査した結果,2つの生息地の間には2種が繁殖に利用する環境に明瞭な差異はない一方で,2種の繁殖期の分化程度が異なることが示唆された.