| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-112 (Poster presentation)
共同的一妻多夫とは、1個体の雌と非血縁の複数雄が1つの巣で繁殖する極めて稀な配偶システムで、鳥類と魚類の数種でしか報告例がない。雌が複数雄に卵を分配するため、雄の利益は一夫一妻に比べて小さくなるはずである。このような一見常識外れの共同的一妻多夫の成立要因と維持機構の解明は、動物における雌雄の繁殖・子育て戦略の進化の理解に重要である。これまで父性認識操作など雌側の視点からの研究はあるが、雄がなぜ協力して繁殖するのかは不明なままである。本研究では、共同的一妻多夫の成立要因と維持機構の解明を目的として、一夫一妻もしくは共同的一妻多夫で繁殖するタンガニイカ湖産カワスズメ科魚類Julidochromis ornatusの子育て行動の野外観察と除去実験を行った。野外観察の結果、共同的一妻多夫の優位雄(α雄)は他種に対する防衛を行い、劣位雄(β雄)は稚魚の近くで子育てするという役割分担があることが明らかになった。また、グループメンバーは一定の体サイズ差で維持されていることも分かった(雌/α雄=1.17, α雄/β雄=1.39)。そこで、他種への攻撃を担い、子育ての要となるα雄を除去する実験を行った。その結果、除去後の雌もβ雄も子育て行動に有意な変化はなかったが、稚魚の生存率は有意に減少した。また、半数以上のグループで数日以内に新規加入した雄が観察され、新規加入雄は、除去したα雄と同程度の体サイズであった。さらに、新規加入した雄がいるグループで、除去1週間後にα雄を再導入すると、新旧関係なく雌が小さい方の雄を追い出す行動が見られた。以上より、本種では社会的地位に基づく雄間の子育ての役割分担があり、雌は体サイズを基準に新規加入雄を選別していることが示唆された。J. ornatusは体サイズ依存社会であり、共同的一妻多夫の成立には、グループ内の体サイズ構成が重要な鍵となることが考えられた。