| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-114 (Poster presentation)
複数の異性と交配する複婚は自然界で広く見られる。オスでは交配したメスの数がそのまま繁殖成功につながる。一方、メスでは卵生産の制限があるため、交配回数の多さが繁殖成功につながるとは限らない。それでは、なぜメスは複婚を行うのだろうか。これまで体内受精の鳥類を中心に多く研究されてきたが、体外受精の魚類や両生類の研究は多くない。受精様式の違いから体外受精の生物のメスが複婚を行う適応的な意義は異なるかもしれない。
シベリアヤツメは複婚を行う魚類で、1回の産卵ではオスが全身をメスに巻き付け、メスと同時に放卵・放精を行う。これをメスは相手を変えて100回以上も繰り返す。ペアでの産卵(ペア産卵)に加えて、メスの総排出孔付近にだけ巻き付くスニーカーが加わる産卵(スニーカー産卵)や、メスが放卵しない擬似交配も観察されている。
本研究は、ペア産卵とスニーカー産卵が繁殖成功度(放卵数、孵化仔魚数、孵化率)や産卵行動(産卵回数や擬似交配)に与える影響を検討した。産卵時に特定の体勢がある生物ではスニーカーがペアの体勢を崩し、産卵を妨害する可能性がある。一方、複数のオスの存在は多くの卵の受精に貢献できるかもしれない(受精保証仮説)。そこでスニーカーがメスの繁殖成功度を低下させる「スニーカーによる妨害仮説」とスニーカーがメスの繁殖成功度を上昇させる「スニーカーによる促進仮説」の2つの対立仮説を検証した。
水槽実験の結果から、スニーカー産卵で放卵数と孵化仔魚数が有意に多かった。一方、受精率と産卵回数は差がなかった。擬似交配はスニーカー産卵で少ない傾向があった。以上の結果は「スニーカーによる妨害仮説」を棄却し、「スニーカーによる促進仮説」を支持する。また体外受精の生物のメスにおける複婚の適応的意義の1つは受精保証のためである可能性が示唆された。