| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-124 (Poster presentation)
ハナバチなどの送粉者は、一種の花ばかりを連続的に訪問する習性「定花性」をもつ。これまで定花性は、訪問する花種を切り替える際に必要な、他種の探索イメージの記憶を呼び出すコスト(切替コスト)を避けるための行動と説明されてきた。これをふまえると、植物は同所的に開花する他種と異なる花色(探索イメージ)をもつことによって切替コストを増加させ、異種間で起こる花粉の移動や交雑をふせぐ利益を得られるかもしれない。しかし定花性の実現レベルは、必ずしも切替コストだけでは決まらないかもしれない。というのも、送粉者にとって定花性を高めることは、しばしば近くの他種をスキップし、余分な飛行コストを払うことにつながるためである。また、この飛行コストは、複数の植物種が空間的に混在する環境において特に顕著になるだろう。そこで本研究では、最適採餌理論の枠組みに基づいて、定花性を様々な環境における切替コストと飛行コストをバランスするための最適戦略「実現定花性」として捉え直すことを提案する。この検証のため、報酬が等しい人工花2種の混在度によってクロマルハナバチの定花性がどのように変化するかを調べる室内実験を行った。この結果、種間で花色が大きく異なる場合(青・黄)でも、混在度が高まるにつれて定花性は低下した。また種間で花色が似ている場合(黄・山吹)、いずれの混在度においても、飛行コストのみが意思決定に寄与した場合と等しいレベルの定花性が観測された。以上の結果は、従来考えられてきた認知・記憶能力の制約だけでは説明できない。むしろ定花性の実現レベルは、切替コストと飛行コストとのバランスによって決まる可能性を強く示唆している。さらにこの発見は、他種と異なる花色をもつことが定花性の促進という利益につながるのは、送粉者が近くの他種を選びがちな環境、即ち複数の植物種が空間的に混在した群集であるという興味深い示唆を含んでいる。