| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-126 (Poster presentation)
発熱植物のひとつであるハス属は、花の中心にある花托が30〜35℃に発熱し、さらに約3日間その温度を維持するという極めて稀な形質を有している。ハスがもつ発熱・恒温性は香りの揮発促進や訪花昆虫への報酬、受精促進等の役割があると考えられてきた。しかし、これらの役割を発熱の程度を操作する実験に基づいて検証した研究はほとんどない。そこで本研究は、野外でハスの発熱の程度を操作する実験方法を検討し、さらに「ハスの発熱・恒温性は雄蕊の開葯を促進し、その結果訪花昆虫の誘引に寄与する」という新たな発熱・恒温性の役割の可能性を野外実験により検証することを目的とする。まず発熱器官である花托を開花1日目に切除することでハスの発熱の程度を操作できるか検証したところ、夜間の発熱の程度が未処理の花より3~10℃下がる一方、花弁の開閉運動に大きな影響がないことが確認された。ハスの発熱の程度を操作できることが確認されたため、次に花托一部切除が雄蕊の開葯率に与える影響を調べたところ、花托一部切除した花は未処理の花より開葯率が低下することがわかった。また恒温器を用いて開葯前日の雄蕊を様々な温度に12時間維持し、温度と開葯率の関係を調べたところ、温度の低下に伴い開葯率が低下し、十分な開葯には30度以上の高い温度で維持される必要があった。さらに花托一部切除により訪花昆虫数も減少することが示された。以上の結果より、ハスの花托一部切除は花弁の開閉運動を大きく阻害することなく発熱の程度を操作できることが明らかとなり、この操作に伴う発熱の程度の低下は開葯率及び訪花昆虫数の減少につながることが示唆された。さらに十分な開葯には30度以上の高い温度の維持が必要であることから、ハスの発熱・恒温性は開花2日目早朝という適切なタイミングで雄蕊を開葯させ訪花昆虫を誘引する役割を有すことが示唆された。