| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-127 (Poster presentation)
ヤマモモは国内照葉樹林の主要構成種で、比較的大きな液果をつける動物散布型植物である。1950年頃にニホンザルが絶滅した種子島では、今でもニホンザルが生息する屋久島と比較して、ヤマモモの種子散布量が激減していることが報告されている。そこで本研究では、種子島と屋久島においてヤマモモの種子散布距離を比較し、森林の空洞化が種子島のヤマモモに与える影響を議論することを目的とした。
種子島と屋久島の各調査地で2021年から2023年に採取したヤマモモの葉からDNAを抽出し、マイクロサテライトマーカー7座を用いて遺伝子型を決定した。花の観察による個体の雌雄判別の結果から、各調査地の個体を母樹候補集団(種子島:145個体、屋久島:129個体)、父樹候補集団(種子島:136個体、屋久島:186個体)、子集団(種子島:111個体、屋久島:232個体)に分け、最尤推定に基づく両親解析を行ったのち、種子散布距離を算出した。また、個体間近縁係数(Fij)と個体間距離について回帰分析を行い、ヤマモモの空間遺伝構造を解析した。平均種子散布距離は種子島の調査地で129.2±9.7 m(平均±SE)、屋久島の調査地で249.4±14.1 mと屋久島の方が長く、見た目の分布パターンが同様な両調査地で、森林の空洞化の影響が種子散布距離の違いとして検出された。推定された種子散布距離から、先行研究と同様に種子島では鳥類がヤマモモの中心的な種子散布者であると予想され、種子島での種子散布量は屋久島と比較して少ないと考えられる。また、種子散布距離が20 m以下だった個体は、種子島の調査地で全体の22.8 %、屋久島の調査地で全体の9.1 %であった。さらに、種子島の子候補集団では他の集団に比べて強い遺伝構造が見られ、特に0~50 mの範囲で近縁個体が集中していた。短距離散布による近縁個体の集中は、競争や病虫害などの発生により、実生の生残に負の影響を与える可能性があるため、今後実生更新への影響をさらに調査する必要がある。