| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-130 (Poster presentation)
植物の形質の中でも、花の色は送粉生態学において重要な役割をもつ。ハナバチなどの送粉者は、蜜などの報酬と花色を結びつけて学習し、同じ色の花を連続的に訪れる。そのため、多数派の花色をもつ個体が送粉において有利になる正の頻度依存性選択が働き、多くの植物で花色は集団内で単型になると考えられている。しかし、自然界には、集団内において離散的、もしくは連続的な変異のある花色もつ植物も多く存在する(以下、花色変異種とする)。これまでに様々な分類群の植物において、現象の創出・維持メカニズムや適応的意義を探る研究が行われているものの、花色変異種がなぜ進化するのかはまだ十分に解明されていない。
本研究では、集団内で著しい花色変異をもつリンドウ科センブリ属のヘツカリンドウを材料とし、種内花色変異現象の進化の探求を試みた。植物の適応度に影響し、花色に選択圧をかけると考えられる送粉者、種子食者の種組成の比較を花色変異種と花色が単型の種との間で行った後、ヘツカリンドウの花色変異集団において、送粉者と種子食者に特定の花色への選好性があるかを、花色と結果率、花色と食害果実率の相関の有無を調べることにより、検証した。
今回の調査では花色と送粉者・種子食者との間に関係は見られなかったものの、ヘツカリンドウと花色単型の近縁種との生態の比較では、送粉者相に違いが見られた。ヘツカリンドウでは、花色単型種にて多かれ少なかれ訪花が観察されたハナバチ類が全く訪花していなかった。ハナバチ類の訪花の欠如が何らかの形で種内花色変異現象に関与している可能性が考えられる。また、ヘツカリンドウには少なくとも2科3種の種子食者が存在することが明らかになった。本研究では、ヘツカリンドウの種内花色変異の駆動・維持メカニズムの解明には至らなかったものの、複数の選択圧が作用する非常に複雑なメカニズムが存在する可能性が考えられる。