| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-131  (Poster presentation)

段戸モミ・ツガ林における植食動物の排除が実生動態に与える効果【A】【O】
The effects of herbivorous mammals exclusion on seedling dynamics in the Dando mixed cool-temperate forest【A】【O】

*高橋幸歩, 中川弥智子(名古屋大学)
*Yukiho TAKAHASHI, Michiko NAKAGAWA(Nagoya Univ.)

実生定着を制限する要因の特定は、実生動態を理解することだけでなく、森林の更新や樹種組成を予測するうえで重要である。この制限要因の一つに、実生を食害しその成長を阻害する植食動物の存在があげられる。そこで本研究では、木本とスズタケの実生を対象に実生と環境の調査を行い、植食動物の排除と赤外線センサーカメラによる植食動物の特定を通して、植食動物が実生動態に与える影響を明らかにすることを目的とした。
本研究の調査は、愛知県の段戸モミ・ツガ希少個体群保護林で行った。調査区内に設置された44個の実生コドラ―ト(各4 m2)で、高さ30cm以下の実生の高さの計測、および葉の枚数や種の記録を2022年と2023年の春と秋に行った。また、2022年8月以降、20個の実生コドラートの一部分を金網で覆い、植食動物を排除した。排除区画の近くに赤外線センサーカメラを設置し、2022年には78日間、2023年には178日間動画を撮影した。映像データから動物種ごとの出現回数を求めるとともに、実生全体と主要な樹種毎の死亡率、葉面積および高さ成長について排除区画の内外で比較した。くわえて、植食動物とその他の環境要因が実生動態に与える影響を評価するため、一般化線形モデルを用いての解析も行った。
実生全体の死亡率は、2022年には排除区画の内外で差がなかったが、2023年には排除区画外で有意に高くなった。排除区画内では、実生全体の高さ成長とスズタケ、リョウブの高さ成長量に有意な増加傾向があり、排除区画の設定後、約1年半という短期間でも成長量に差が現れたことから、調査地では実生への採食圧が強いことが明らかになった。最も出現回数の多い植食動物はニホンジカであり、映像ではスズタケ、サクラ、リョウブの実生を食害している様子が認められた。一方で、実生の成長量の変化や植食動物の出現回数に年変動が認められたため、継続した観察が必要である。


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