| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-133 (Poster presentation)
散布前種子捕食は植物の適応度に強く作用し、繁殖形質にも影響する可能性がある。しかし、植物の繁殖形質進化に関する研究の多くは送粉者との相互作用に着目しており、種子捕食者の影響を定量化した研究は少ない。本研究は、北海道の高山帯に分布するキク科植物ウスユキトウヒレンを対象とし、種子食害圧と繁殖形質との関係を調べた。高山植物の多くが他家受粉に特化する中で、本種は比較的高い自殖能力を持つ。自家和合性の植物は他家受粉に失敗した場合の繁殖補償として自殖種子を作ると考えられるが、その効果は近交弱勢の程度に依存する。種子食害が適応度に与える影響を調べるために、他殖種子と自殖種子の質の違いを区別することは重要である。本研究は、ウスユキトウヒレンの自家和合性と近交弱勢を定量化し、種子食害圧が繁殖特性と適応度に与える影響を評価した。
自然受粉下ではハエ目、ハチ目昆虫が頻繁に訪花し、結実率は約60%だった。受粉実験による自家和合性指数は0.42と中程度だったが、自殖種子の発芽能力は低く、強い近交弱勢(0.74)が確認された。自然状態で90%以上の個体がハナバエ科の幼虫による種子食害を受けた。花茎が高く多くの頭花を持ち、早い時期に開花が始まる個体ほど、結実率は高かった。一方で、種子食害率は、比較的頭花数が多く、遅く咲く個体で高かった。最終的な生存種子数は、花茎高が中程度で多くの頭花を持ち、早く咲き出す個体で高かった。
本種は複数の頭花を持ち、各頭花には複数の小花が存在する。小花が多い頭花ほど種子食害を受けやすかったが、最終的な生存種子数は多かった。これは、種子食幼虫はほとんどの場合頭花中に1個体のみであり、食害種子数に上限があるためと考えられた。強い近交弱勢があるにもかかわらず自殖種子を生産する理由として、頭花あたりの種子数を増やし生存種子数を増やす可能性が示唆された。