| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-134 (Poster presentation)
特殊化した送粉様式をもつ多年生植物の繁殖にとって、開花フェノロジーが送粉者のフェノロジーとマッチする必要がある。本研究では、トラマルハナバチ女王に送粉を依存するサイハイランを対象に、5年間の開花フェノロジーとトラマルハナバチ女王の訪花回数、開花後の結果率を調査した。調査は石川県金沢市の金沢大学角間里山ゾーンにて2019年~2023年に行った。開花期間である5月~6月に3~5日おきに調査地内のサイハイラン花序の開花数を記録した。期間中は各花序に自動撮影カメラLtl-Acron6210を設置し、トラマルハナバチ女王の訪花を撮影した。また、気温と開花フェノロジーとの関係を調べるため、各年の3月1日~5月1日までの日平均気温-5℃を積算し比較した。2019年~2023年の総開花数(花序数)は206花(15花序)、382花(26花序)、797花(51花序)、753花(52花序)、886花(59花序)だった。各年の3月1日~5月1日までの積算気温は、327.7℃、325.5℃、396℃、393.9℃、447.8℃だった。開花日は5月18日、5月22日、5月13日、5月15日、5月9日であり、3月~5月の積算気温が高いほど開花が早かった。開花ピークは5月30日、6月4日、5月26日、5月26日、5月24日だった。トラマルハナバチ女王の訪花回数は0回、11回、395回、347回、148回だった。結果率は、0%、0.9%、26.9%、35.2%、1.4%だった。総開花数が同程度の2021年~2023年のうち、2023年はトラマルハナバチ女王の訪花回数が少なく、結果率が低かった。2023年は開花ピークを過ぎた5月26日~6月6日にかけてトラマルハナバチ女王の訪花が観察された。訪花された29花序のうち結果したのは5花序のみであり、開花日から最初の訪花までの日数が比較的短い花序だった。また2023年は過去30年間と比較して3月1日~5月1日の積算気温が高かった。このことから、気温の上昇はトラマルハナバチコロニーの形成期の女王の行動に影響し、サイハイランとの相互作用が弱まる可能性が示唆された。