| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-135  (Poster presentation)

微小なラン科植物ヨウラクランのタマバエによる送粉【A】
Pollination of a miniature orchid Oberonia japonica by gall midge【A】

*砂川勇太, 望月昂, 川北篤(東京大学)
*Yuta SUNAKAWA, Ko MOCHIZUKI, Atsushi KAWAKITA(Tokyo Univ.)

ラン科は被子植物最大の科の一つであり、多様性な花形態を持つことで知られる。これは多様性な送粉様式を反映していると考えられ、古くから研究者に注目されてきた。しかしAckerman et al. (2023)によるとラン科全体の90%以上の種で送粉様式が未解明で、特に温帯/熱帯アジア分布種、着生種、双翅目昆虫に送粉される小型種について研究が遅れている。
ヨウラクラン属(Oberonia)は旧熱帯地域に300種ほどが分布する着生性のランで、穂状花序に直径約2mmのラン科で最小級の花をつける。その花の小ささゆえに送粉生態が長らく不明であり、微小な花をもつ意義は謎に包まれていた。
本研究対象のヨウラクラン(O. japonica)は宮城県以南の本州~琉球、韓国、台湾に分布し、属の北限種に当たる。自生地での観察の結果、夜間に体長2mmほどのタマバエの一種が多数訪花し、吸蜜様行動の過程で花粉塊を頭部に付け、送粉する様子が確認された。この様にタマバエにより送粉されるランは他に報告されていない。タマバエ科は動物界で最も種数の多い科の1つで、虫こぶの形成を介した植物との相互作用がよく知られる。一方、タマバエによって送粉される植物は11科でしか知られていない。タマバエが微小であり主に夜間に訪花する習性から、送粉を介した相互作用が見落とされてきた可能性が高い。
さらに訪花したタマバエのほとんどが、植物に寄生するサビ菌を幼虫が専食することで知られるMycodiplosis属の雌であった。ヨウラクランの花がサビ菌(胞子堆)に形態的に類似していることから、産卵場所としてサビ菌胞子堆へ擬態している可能性が考えられる。またGC-MSによる花の匂い分析から特徴的な揮発性物質が検出され、ヨウラクランが匂いを用いてタマバエを誘引している可能性がある。
本研究結果は花形態の多様なラン科の中で最小の花を持つ意義を理解する上で重要な手掛かりとなる。


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