| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-139 (Poster presentation)
種間に生殖隔離機構が存在することで、交雑が妨げられ、種の独立性は保たれている。植物では、種間の送粉が制限されることにより繁殖干渉が生じず、複数種の共存が可能となる。
サトイモ科テンナンショウ属は日本列島に53種が知られる。その多くが日本固有種であり、各種がそれぞれ異なる送粉者を利用することで種間の送粉が制限されることが報告されてきた。その中でもナガバマムシグサ群は、早い花期、濃褐色の仏炎苞、染色体数(2n=26)など、多くの形質で他の日本産種とは異なる。ゆえに送粉戦略も他群とは異なる可能性が考えられる。本研究では群馬県安中市の碓氷峠付近でナガバマムシグサ群のミミガタテンナンショウに加え、同所的に生育するマムシグサ群のヤマザトマムシグサ(2n=28)、ヤマジノテンナンショウ(2n=28)を用いて、開花期と送粉者相を調査した。
その結果、ミミガタは4月上旬から中旬に開花のピークを迎え、4月下旬にはほぼ花期が終了した。一方ヤマザトは4月下旬から、ヤマジノは5月上旬から開花が始まり、6月下旬に開花が終了した。ヤマザトとヤマジノは2か月ほど花期が重複したが、ミミガタはほとんど花期が他2種と重複しなかった。
訪花昆虫の総個体数のうち、キノコバエ科がミミガタで約75%、ヤマザトで約65%、ヤマジノで約95%を占めた。また、訪花昆虫となるキノコバエ科としてヤマザトはBrachycampta orientalis、ヤマジノはExechia seriataを主に誘引したが、ミミガタは18属にわたる多様なキノコバエ科を誘引していた。以上の結果から、花期が重複するヤマザトとヤマジノは異なる特定の送粉者を利用して生殖隔離を成立させている一方、他種と開花期の異なるミミガタは特定の送粉者のみを誘引する必要がなく、送粉効率を高めるため、その時期に発生する多様なキノコバエ類を誘引していることが示唆された。