| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-141 (Poster presentation)
近年、ニホンジカCervus nippon (以下、シカ)の急増に伴い、過度な採食による植生劣化が日本各地で報告されている。シカの嗜好性植物と不嗜好性植物は全国的な傾向が示されているが、地域差も存在する。また、シカの採食圧の研究は山地帯での研究が多く、低地の里山環境(落葉広葉樹二次林)における知見は乏しい。本研究では、丹沢山地と市街地の間に位置し落葉広葉樹二次林が優占するあつぎこどもの森公園(神奈川県厚木市中萩野、約8 ha)において、年間を通してシカの新鮮な糞を採集し、糞中DNAメタバーコーディングにより採食植物種および採食量の季節変化を解析した。
調査地の複数地点から毎月採集したシカ糞に含まれる植物DNAを抽出し、各月・地点ごとにインデックス配列を付与したプライマーを用いて葉緑体DNAのtrnLイントロン領域とrbcLエキソン領域を増幅した。これらを精製、プールしたライブラリを作成し、Miseq (Illumina)を用いて300 bpペアエンドでアンプリコンシーケンスを行った。2023年の3~8月にかけて採集した糞サンプルを用いて解析を行った結果、trnL領域では1サンプルあたり10,129~22,113リードが得られ、全サンプルで100リード以上のOTUは393得られた。一方、rbcL領域では1サンプルあたり4,446~8,108リードが得られ、全サンプルで100リード以上のOTUは160得られた。採食植物種および各種の検出されたリード数は季節で大きく異なった。3月は先行研究で不嗜好性植物とされた種のリード数が多く検出された一方、4月以降は嗜好性が高いとされる植物種が多く検出された。これらのことから、シカは季節ごとに多様な植物種を食べつつも、各植物の生育段階に応じて採食植物種を選択していることが推察された。