| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-148  (Poster presentation)

オオイヌタデにおけるトライコームの有無と関連した形質変異【A】【O】
Phenotypic variations associated with presence or absence of trichomes in Persicaria lapathifolia【A】【O】

*矢野文士, 松田浩輝, 徳田誠(佐賀大学)
*Fumito YANO, Hiroki MATSUDA, Makoto TOKUDA(Saga Univ.)

植物は植食者に対して多様な被食防御戦略を示すが、防御にはコストがかかる。そのため、生育環境などに応じた防御戦略の使い分けや組み合わせにより、防御への投資を最適化し、適応度を最大化していると考えられる。生育場所の被食圧によって最適な投資量が異なるため、同種内であっても、防御形質をもつ集団ともたない集団が生じることがある。このような防御形質の変異は、その植物を利用する動物群集やその動態にも影響を与える場合があり、変異の維持機構に関する研究は多い。一方、植物の適応度には様々な形質が複合的に関与しているため、防御形質多型と関連して他の形質にも変異が見られると推察されるが、他形質の変異に焦点を当てた研究はほとんどない。本研究では、葉にトライコーム(植食者に対する物理的防御形質)をもつ有毛型ともたない無毛型とが存在するオオイヌタデを対象に、他形質の変異に着目して栽培実験を実施した。複数の有毛型・無毛型系統を用いて、草丈、乾燥重量、初期の成長速度、開花までの日数、種子数、平均種子重、枝分かれ数を測定した。その結果、草丈と乾燥重量には有意差はなかったが、初期成長および開花日は無毛型の方が有意に早かった。また、種子数と平均種子重は無毛型の方が多く重かったが、枝分かれ数は有毛型の方が多かった。無毛型では、トライコームを作らずに成長や種子生産により多くの資源を配分しているのに対し、有毛型では生育期間の延長によりトライコーム生産のコストを補っている可能性が考えられた。また、無毛型・有毛型どちらであっても防御形質を持たず食害のリスクがある花穂は、枝分かれすることで複数の花穂を作り、食害リスクを分散させている可能性が考えられた。本研究により、防御形質の有無と連動して複数の他形質が変異していることが明らかになった。植物の形質多型の研究においては、関連形質も含めた包括的な調査が重要であると考えられる。


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