| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-150 (Poster presentation)
砂浜に生育する海浜植物は,飛砂の発生や砂の移動・流出を抑止する効果があり,砂浜の安定に重要な役割を果たしている。しかし,近年,沿岸地域の開発や車の乗り入れ等によって海浜植物は減少している。シロヨモギはキク科ヨモギ属の多年生植物で,アジア北東部の亜寒帯から温帯にかけて広く分布している。日本では新潟県・茨城県を南限として北海道までの砂浜に分布するが,本州の5つの県で県指定絶滅危惧種に指定されている。シロヨモギの研究は日本だけでなく国外でもほとんど行われておらず,生態的・遺伝的知見はほとんどない。
昨年の発表では,シロヨモギが自家和合性,短距離型海流散布である事と,北海道4集団,青森県,岩手県,秋田県,宮城県,山形県,茨城県2集団,新潟県3集団の14集団計442個体を核 SSRマーカー11座で得られた解析結果を報告した。本発表では,北海道4集団,青森県3集団,秋田県2集団を追加した23集団計716個体の核SSR解析の結果と,デモグラフィー解析から推定した集団動態について発表する。核SSRマーカーによる解析の結果,北海道6集団と青森の太平洋側1集団は遺伝的多様性が高かった一方(AR:4.30~9.07),北海道中央部の2集団と本州の他の14集団では低い値を示した(AR:1.10~2.43)。PopClusterによるクラスター解析の結果,北海道の北側集団(K1),北海道の南側集団と太平洋側(K2),日本海側(K3)の3クラスターに明瞭に分けられる集団構造が明らかになった。シロヨモギの集団遺伝構造に基づき,3系統(K1,K2,K3)の5つの分岐モデルについて,fastsimcoal2を用いた近似ベイズ計算によるデモグラフィー解析を行った結果,最適モデルとして,K1から先にK2が分岐し,その後K1からK3が分岐したモデルが選択された。発表では,得られた結果に基づき,シロヨモギ集団の過去の集団動態について考察する。